そんな私は今、交差点にポツンと立ちすくみながら下品な女の巨大看板を見上げている。
どうしてあんなモノを喰ってしまったのだろうという激しい後悔の念に駆られながらも、貪よりとした重さを腸に感じていた。
真っ黒な排気ガスを噴き出しながら、廃車寸前の四トントラックがブスブスと走り去って行った。
そいつが通り過ぎるのを待っていたかのように、そいつが交差点から消えるや否や信号は青に変わった。
ピッポ・・・ピッポ・・・ピッポ・・・
視覚障害者用の音と共に、歩道で足止めを喰らっていた人々が一斉に動き出した。
ギュルルルルルルルルルル・・・・キュー・・・・・
私の腸が不穏な叫びをあげる。
最後のキュー・・・がやたらと不気味だ。
まだそれほどウンコはしたくない。
今はあくまでもこの音だけに怖れているだけなのだ。
しかし、この音を舐めてはいけない。
この音は、腸からの危険信号であり、私の優れた腸は、最悪な事態を避ける為に必死で信号を送っているのだ。
私は、横断歩道を歩きながら、これからどうしょうかと考えた。
このままバスに乗り、20分掛けて会社へ原稿を届けるか、それとも同じ20分掛けて一度自宅に帰り、不安材料であるウンコを処理してから改めて会社へ向かうか、人生最大の別れ道に差し掛かっていた。
スクランブル交差点の真ん中で私は立ち止まった。
会社に行くなら右の歩道のバス停だ。しかし、自宅に帰るなら左の歩道のバス停だ。
どうする・・・・
交差点に掲げられた歩行者信号機が、青いネオンをパカパカと点滅させはじめ、私を急かした。
とりあえず、まずは原稿を会社へ・・・・と思い、右の歩道へ体を向けた瞬間、いきなりソレは私の下腹部に襲いかかった。
ドーンという重い寒気が全身に走り、同時に腸が捻られたかのような痛みが走った。
来た!
私は迷う事なく、自宅へ向かう左の歩道のバス停へと足を向けた。
一歩一歩足を進める度に、下腹部はキューンという切ない痛みを伴った。
久しぶりだった。久しぶりのこの痛みに、私はバス停に向かいながらも、これは何かの罰なのだろうかと、最近、何か悪い事をしていないか考える。
しかし身に覚えがない。
神様に罰を与えられるようなそんな悪事を働いた記憶は身に覚えがないのだ。
ならばやはりこの原因は、あの蕎麦屋だ。
あの月見そばの生卵だ、そうに違いない!
私の歩調は次第に早くなって来た。
やたらと背筋をピーンと伸ばし、できるだけ平常心を装いながらも、足だけはスタスタと早足になっていた。
交差点を渡り、歩道に差し掛かると、下腹部の重さが急に和らいだ。
まったく、全然、ウンコがしたくなくなったのだ。
しかし私はそんなトリックには騙されない。
私はこう見えても、急にウンコしたくなる歴30年のプロだ、その一瞬の和らぎが、俗にいう「天使の微笑み」という事をよく知っている。